岡口基一の「ボ2ネタ」

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名倉正博教授・「逆転無罪手記 痴漢逮捕の汚名を着せられて」@文藝春秋来月号314頁

今回の手記では,次のような点が指摘されています。

1 事実認定について
(1) 女性は,向ヶ丘遊園駅成城学園前駅下北沢駅の間,下着の中に執拗に手を入れられる被害を受け続けたとされていますが,電車は大変に混み合っていて,成城学園前駅で,名倉教授も女性も,降車客達から,車外にいったん押し出されたそうです。
 それにもかかわらず,再度電車に乗り込んだ2人は,(偶然?)また,隣同士になり,強制わいせつ行為が再開されたそうです。
 女性は,いったん車外に出た成城学園前駅で,助けを求めることが十分にできたはずですね。
(2) 下北沢駅で女性に車外に連れ出された教授は,網棚の荷物を取ろうといったん車内に戻ろうとしますが,これが,逃亡を図ったとされ,犯人である強力な証拠とされたそうです(こういうときは,荷物は諦めて,おとなしくしていた方がいいのでしょうか・・・)。
(3) 女性は,精神的ショックで,胃痛になり,その結果,下痢症状になったそうですが,胃痛で下痢症状になるんでしょうか。
2 証拠の評価について
(1) 強制わいせつの被害に遭った女性は,ウエストが93センチあったそうですが,そのため,自分のお腹で視界が遮られて,下着の中の手をはっきりみることができなかった可能性があるそうです。
(2) 尋問で,検察官の質問に対し,女性が「視力は0.3以下です。」と供述したところ,検察官は「視力は0.3くらいなんですね。」と返し,0.3と認定されてしまったそうです(実際の視力は0.03)。
(3) 実況見分で,女性が,電車に乗り込んで当日の位置関係を確認したが,立ち位置などが一致しなかったそうです。
3 証拠の非開示について
(1) 上記の成城学園前駅での様子は,駅の防犯カメラが提出されれば,すぐにわかったはずですが,なぜか,証拠提出されたのは,下北沢駅の防犯カメラだけでした(この下北沢駅の防犯カメラには,電車のドアの前の2人の様子がはっきり映っていました。)
(2) 名倉教授は,DNAを採取され,鑑定がなされました。しかしながら,どういうわけか,DNA鑑定結果は,証拠として提出されませんでした。


この事件は,最高裁での意見が2:3と小差であったこと,とりわけ,弁護士出身の最高裁判事が有罪意見であったというのが,すっきりしない感を与えていますね。