岡口基一の「ボ2ネタ」

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検証・裁判員制度:判決100件を超えて/5 理由示さず不選任請求

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20091223ddm041040061000c.html
まぁ,制度がある以上こうなるのはやむを得ないんでしょう。「(裁判員制度の)制度の趣旨に反する」と言われても,じゃぁ理由無し不選任の「制度趣旨」はなに?どうするものなの?と当事者なら思いますよね。あとは主観的併合の際の不選任人数のルールを確定し,それを前提に過度の排除が行われないような方策を考える,というところでしょうか。
buchholtz61さんによると,米国では連邦刑事訴訟法24bで,被告人複数の場合は原則として忌避権を共同行使すべきで,Jが裁量により忌避の人数を増やしたり,個別行使を認めることができるとされているそうです。情報提供ありがとうございました。

理由無し不選任は規定上裁判員,補充員の数によって定められますが(裁判員法36条1項2項),被告人については定めはありません。
奈良地裁では個別に事件をした場合には各被告人毎に上記規定満額の不選任行使できることとの均衡で併合事件でも各被告人に不利益にならないように各別に満額行使させたのでしょう。その背景には,各被告人に理由無し不選任を通じて裁判員選任母体形成に関与する「権利」を認め,主観的併合の場合にも,各別の被告人のこの権利を害するのは不当であるという思想を見ることが出来ます(仮に権利説といいます。)。もちろん,奈良の裁判体がどういう考えでこういう方策を採ったかは不明ですが,少なくとも,「被告人の立場」に立って,個別審理より「不利益にならないように」という配慮が働いたことは間違いないと思います。
しかし,上記の「裁判員制度の趣旨」そして戦略的忌避を認めたものでないとする立法趣旨からすれば,理由無し不選任は,呼び出された候補者全体から裁判員選任母体への移行の適正を図るために,当事者の視点からの関与を制度化し,当事者に対して,呼び出された候補者の中から,明確な理由(理由のある不選任事由:34条4項,5項)は認め難いものの,適正な審理のために選任を避けるべきと考える場合にこれを排除する「役割」を与えた制度と見ることになると思います(仮に権能説といいます。)。これは,「権利」ではありませんし,母数に対して一定の不確定要素をトリミングする(その役割を当事者にお願いする)制度となりますから,当事者の数にかかわらず,不選任の割合は1事件単位で決まり,主観的併合の場合でも一定で「かまわない」ことになると思います(その際には被告人側は不選任権を共同行使することになると思います。)。
どうも注解や各論稿を見て,「戦略的忌避を認める制度ではない」という見解を見るにつけ,基本的に後者の立場での立法ではないかと思うのですが,現実の適用場面では前者的な対応をしているような気がします。しかし,もし前者的対応をするのであれば,今回奈良で起きたような事態を防ぐためにも,呼び出し候補者自体を相当数確保するといった手当てをしなければ(各別に審理すれば呼び出し裁判員は当然併合審理の数倍になります。),裁判員選任母体自体が大きな偏りを常に持つということになるのではないかと危惧します。
あと,権利説の場合,確かに被告人側内部の利害対立もあるので,被告人側に各別に満額行使させるのはよいのですが,これに対抗する検察官も本来各別の事件で満額行使できるはずですよね。それを併合したら一人分,というのはいいんでしょうか。

以上は完全に独自の見解であって,どこでも聞いたことのない議論です。完全に私見ですので,ご承知置き下さい。しかし,そういう議論を抜きにして立法し,運用をしてきたつけが現場に回ってきている気がしますね。原則は1被告人1事件とか言っても現実にはそんなうまくいくわけ無いんだから,きちんと米国のように制度化すべきだったと思います。権利説なら尚更です。事前の求意見で現場から声が上がらなかったのかな?まぁ,そういう意見を上げなかった私も共犯な訳ですが。

あぁ,あと屋久島の看護士さんの件は完全に不適切な対応ですね。なぜ明確に返答しなかったのか,当日までその問い合わせを裁判体に引き継がなかったのか,全く理解できません。他庁ではそういう例はないと思いたいですが,少なくとも運営上の参考にしたいので,何らかの情報提供を希望します。