岡口基一の「ボ2ネタ」

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最高裁の入力ミス新たに19件 量刑検索データ誤入力問題で

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100108-00000533-san-soci
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/343722/
そもそも「なぜ入力ミスが生じたか」を検証しないと何の解決にもならないと思いますけどね。「ミスをしないように注意しましょう」「ミスがないかチェックしましょう」なんてのが「カイゼン」の名に値しないことは民間では常識です。

そもそもあんな使いにくいシステムでミスしない方がおかしいですよ。
これまでの量刑検索と全く違うシステムにしたため,入力作業を一からマニュアルに頼って確認しないといけない。
入力要素も通常の量刑判断の道筋に必ずしも沿っていないので,「入力のために」事件を見直さないといけない。
しかも入力システム自体も不親切。タイムアウトされるとそれまでの入力結果も全て飛んでしまい,一から入力しないといけない。途中での下書き保存も入力画面での確認用のプリントアウトも出来ない。ダブルチェック用の画面もなく,チェックしたかどうかの確認方法も備わっていない。

そんなものをつかうことを事件処理の最前線に強いること自体不親切です。裁判員事件の津波が押し寄せている庁ではそもそもこういう入力作業自体相当な負担のはずです。しかも単独も配点されている裁判官は裁判員をしていないときには単独がみっちり入り,しかも起案も溜まっていきます(当然ですが)。事件処理自体は職責なので当然どんなに大変でもやりますが,こういう付加的な事務について何の配慮もない,しかも一般的に流布しているブラウザやサイトなどに比べて数段劣るインターフェイスを押しつけてくるやり方は現場のモチベーションを格段に減殺しますよ。

しかも現場の入力担当の左陪席の声をきちんと聞いてシステムを改修するということをそもそも想定していないのが問題です。
こういう問題が起きる相当前から,現場の左陪席達には共通の不満が相当溜まっていました。そういうものに目を向けないからこうなったのです。
開発サイドとの契約の際にも不備の改修を前提に入れておくべきです。これまで導入されたシステムできちんと使い物になったものの方が少ないのですから(ネット上の無料のシステムの方が有能な数千万円かけて開発したシステムって何?)。
なのに,今回の問題が生じた後も,来た指示は「入力を確認せよ」だけで,システム自体の検証や問題点,改良点の求意見はなかったですよね。それともこれから来るはずだったのでしょうか?

こういう事で労力を使われることが,組織全体にどういう影響を持つのかしっかり考えて欲しい。使いやすいインターフェイスでミスが起きにくい「システムに」するだけで,裁判官の労力を前向きな職務に振り向けられるのです。「誰がミスしたのか」ではなく,「ミスは起きるものだ」という前提に立って,「誰でも余り苦労せずにかつミスせずに済むシステム」を考えて下さい。

(補足)
掲載後,ユーザーの方から2点ご指摘をいただいたので補足いたします。
→ご指摘いただいた方からのご容貌を容れて表現をざっくりしたものに改めました。

1 下書き保存については純然たる入力者段階での保存は出来ない使用になっています。

2 入力画面の印刷は出来ますがわかりにくくなっています。

 私自身が入力担当ではないものですから,不正確な表現となりました。ご連絡いただいた方にはこの場を借りて御礼申し上げます。
他にもユーザーの方から改善点などのご指摘があれば職務上の守秘義務などに反しない限り取り上げたいと思います(こんな所ですることではないと思いますが,ユーザー同士の情報交換の場もないんですよね,これが。弁護士さんと違ってメーリスというわけにもいかないんだから,以前からJ−NETにでも掲示板が欲しいということもいっているのですが,全く音沙汰がありませんね。)。
→もちろん,適式で有効な情報交換の場があるのがベストだと思っています。

情報提供いただいた方には重ねて御礼申し上げます。この場でしか御礼を申し上げられないのでざっくりした言い方になりますが,人的なソリューションに目が向きがちな我が社に対して違った方向のアプローチを考えて欲しいという問題提起と取っていただければ幸いです。