岡口基一の「ボ2ネタ」

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性犯罪者電子足輪装着、法改正で対象者6900人超(韓国)*写真付き

http://www.wowkorea.jp/news/Korea/2010/0713/10072598.html
「韓国では、さらに性犯罪を繰り返す者に化学療法の強制で性的衝動を抑えるように治療命令を出す制度も立法され、来年施行の予定。これも違憲論や効果を疑問視する意見が強い。」

(参考)
以下,「性犯罪」小田晋(2006年4月5日新書館発行「心の病の現在5脳と犯罪,性犯罪,通り魔無動機犯罪」所収)より。

犯罪にまで至る異常性愛を矯正治療する方法の一つは精神分析療法的側面からの自己直面化技法による神経症化であり,もう一つは世界の主流となった薬物療法の側面の治療法である。

 薬物療法の面では,第2次大戦後でも,アメリカで,重大な性犯罪を犯した者に対して,釈放・減軽取引による断種手術や抗男性ホルモン剤の投与の事例があったそうです。この抗男性ホルモン剤は,投与量を加減することで,最低限の性行為(配偶者との性行為)も可能で,異常性愛者でも通常の生活を維持することは出来るそうです。

 また,性的衝動を男性ホルモンの減少で適切に押さえて性的な異常行動の発現を押さえるだけではなく,症状によっては他の薬物も併用するのが適切とのお考えです。性的嗜好障害は一種の欲動障害で嗜癖的な性質を持ち,当人には薬物依存のような渇望,あるいは強迫として体験されるので,強迫症状にはSSRIや抗不安剤が有効だそうです。
そして,性衝動が攻撃衝動と結びつき,暴力的性犯罪の傾向が生じているときや性的主題と暴力的主題が結合した幻想,空想,白昼夢の抑制には強力静穏剤が有効だそうです。特にサド・マゾヒズム的傾向が見られるときには持続性精神病薬の注射を行うべきとのお考えです。

 処方した抗男性ホルモン剤を飲んでいるかどうかは,血液中のテストステロン濃度を検査すればすぐに分かる。
患者がコンプライアンスを守らない場合,必ず矯正施設への再収容を義務づけるよう法改正するべきである。(中略)今必要なのは,たんなる保護観察制度ではない,治療的保護観察制度なのである。

 これを読むと薬物療法は効果的に思えます。しかし他方で,現在の精神医療の状況からみて,このような分野の専門家の数が絶対的に足りないのではないか,適切な薬物量をコントロール出来る診療体制を担保できるのか,といった社会資源の側の不安を感じずにはいられません。
 また,治療のコンプライアンスの確保は重要な問題で,現在の医療観察では症状を中心に入院治療にするか入院以外にするかを決められるだけですが,これはコンプライアンスの確保という点で不十分にも思えます。むしろ,刑事保護観察での特別遵守事項の方が裁量的猶予取り消しの可能性による強力な強制になっているように思えます。
 ですから,医療観察においてもコンプライアンスを確保する方策は検討されるべきだと思いますし,保護観察においても医療的措置を視野に入れた対応を検討すべきではないかと思われます(現在は幻覚妄想の治療を受けることが特別遵守事項に入っているだけです。)。なお,医療観察になることが予想される事件については,執行猶予判決に際して保護観察に付し,治療継続や断酒など,治療に必要な措置を特別遵守事項にしておくことでコンプライアンスの確保を図るという工夫は考えられます。現在は,医療観察になる事案については,そちらに全て任せるといった形で保護観察まで付さない例が多いのではないかと思われますが,医療観察に付した場合にどうなるかも念頭に置いて判決する必要もあるのではないでしょうか。