岡口基一の「ボ2ネタ」

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ビーナスVこと髙部眞規子知財高裁所長率いる知財大合議部 今度は1項損害の判決

ビーナスVこと髙部眞規子知財高裁所長率いる知財大合議部が、

昨年の「2項損害」に係る判決に続き、「1項損害」に係る判決を出したよ。


知財高判令和2年2月28日


まずは特許法102条1項の損害の基本的な概念の復習を一つ一つしている。

「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りる(特許発明の実施品でなくてもよい)。

「単位数量当たりの利益の額」は,特許権者等の製品の売上高から特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した額(限界利益の額)のことをいう。

「実施の能力」は,潜在的な能力で足りる。

「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい,例えば,①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性),②市場における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在することなどの 事情がこれに該当する。

など。


その上で、特許発明を実施した特許権者の製品において,特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合の処理について判示しているよ。

 

まず、この場合も、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者の逸失利益となることが事実上推定されるとしている。

 

そして、この推定は覆滅されることがあるとしている。

 

本件でも、特許発明の特徴部分が本件製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから,本件製品の販売によって得られる限界利益の全額を逸失利益と認めるのは相当でなく,推定が一部覆滅されるとしているよ。

そして「本件特徴部分の本件製品における位置付け,本件製品が特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮すると,同覆滅がされる程度は,全体の約6割である」としている。


我々実務家にとってはビーナスⅤこそが「生きたルールブック」。

今後は、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合は、この判決に従って実務は動いていくことになりそうです。

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=89272

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/272/089272_hanrei.pdf


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