岡口基一の「ボ2ネタ」

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裁判員制度は「憲法に適合する法律に拘束される結果であるから,同項(憲法76条3項)違反との評価を受ける余地はない。」

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111116154348.pdf
憲法が一般的に国民の司法参加を許容しており,裁判員法が憲法に適合するようにこれを法制化したものである以上,裁判員法が規定する評決制度の下で,裁判官が時に自らの意見と異なる結論に従わざるを得ない場合があるとしても,」↑


 ん〜?裁判員法による制約が裁判官の独立を害するかどうか,の論点部分でこの論旨では,結論を理由付けにしているように思えるのですが…。これより前の部分では,裁判員法の合憲性について裁判官の独立の観点から検討した箇所はありませんし。


 同項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」とあり,個別の裁判官の職権行使に当たっての独立を規定しているに止まり,個別の裁判官の判断が裁判の結果に反映されることまでは規定していないから,「裁判所」が合議体によって構成される場合に,個々の裁判官が独立に職権を行った結果得た結論が,「裁判所」の結論にならないこともあることは,「合議体の本質から」やむをえず,これは従前からの裁判官のみの合議体でも同様であって,裁判員法に特有の制約ではない,というなら分かります。そして,合議体に裁判員が入ることの合憲性はこれより前の論旨に含まれますから,全体として,「憲法の保証する」裁判官の独立を害するものではない,という結論になるのなら理解が出来ます(裁判員との評議が裁判官個々の独立を害するとの批判も,合議体に裁判員が入ることが合憲であれば,合議体である以上当然の前提であり,独立を害さない,という論旨があり得るでしょう。)。


 しかし,裁判官の独立の制約が問題となっている場面で,「憲法に適合する法律(しかもその適合性審査では裁判官の独立を制約するか否か,制約する場合にはその適否,は検討されていません)に拘束される結果だから同項(憲法76条3項)違反との評価を受ける余地はない」というのでは,裁判官の独立の侵害の有無は,合憲性審査の対象から完全に欠落しており,憲法上の保証がないのと同じになりはしないでしょうか。