「岡口裁判官に対する弾劾裁判が始まった。問題とされているのは、基本的に過去の懲戒の際に問題とされたのと同じツイッターである。
裁判官は憲法問題について意見を表明する自由がある
ヨーロッパ人権裁判所においては、裁判官に公的な討論に加わる自由があることが自明の前提とされている 。そして、この自由は、裁判と裁判官の公平性と司法の独立性に対する市民の信頼を傷つけるような場合には制限される。
自己の担当した事件について公にコメントした場合も、事案によっては許される場合がある(ロシアの例)
裁判官の表現の自由に対する制限が認められるかどうかは、それぞれのケースの具体的な状況、その裁判官が所属する裁判所、対象とされる表現の文脈、罰則の程度などを総合的に考慮しなければならないとされている。
ヨーロッパ人権裁判所は、クデシュキナ判事の取り上げた問題は公益に関連し、彼女のインタビューにおける発言の一部に一般化や誇張が認められるとしても、公平なコメントといえると判断した。そして、クデシュキナ判事に課せられた懲戒処置は、公的な討論に参加しようとする裁判官に対する萎縮効果をもたらすことを指摘し、ヨーロッパ人権条約10条違反を認定したのである。
ヨーロッパ人権裁判所は、バカ判事がこのような意見を述べたことは、権利の行使であるだけでなく、司法の公平性を維持するための義務でもあったと述べている点が注目される(パラグラフ168)。
この判決は、政府によって司法と裁判官の独立性が侵害されようとしている場合には、裁判官にはこれと闘う権利があり、同時に闘う義務があることを示している。司法制度が崩壊の危機に直面しているような状況では、一人一人の裁判官は、政府と対決してでも、司法の独立と裁判官の独立を守るために闘わなければならないことを、このヨーロッパ人権裁判所の判決は示している。
岡口裁判官の行為は、全く自由な個人的な意見表明である
このように、ヨーロッパ人権裁判所の判例法は、裁判官が公に裁判官の肩書で発言するとき、とりわけ自らの担当事件について発言するには、適度の抑制が求められるが、市民としての発言にはそのような抑制は求められないことを示している。
たとえば、その裁判官が当該事件を担当する可能性のある場合に、現に継続中の具体的事件に関して意見表明したような場合には懲戒されることは認められている 。しかし、そのような裁判官の公平性について市民の具体的な疑念を抱かせるような場合でなければ、広く裁判官に対して市民的な自由が保障されるべきであるとされているのである。個人的な意見表明は原則として自由なのだ。
個性を持った裁判官からなる司法こそが政府からの独立を守ることができる
私は、このことによって、これまでも、ただでさえ、自由に発言することのなくなっている日本の裁判官が、ますます口を閉ざし、市民とはかけ離れた閉鎖的な環境の中に閉塞してしまうことになることを深く恐れる。
私たちの国、日本はほんの70年ほど前には軍隊の横暴の前に、司法・裁判官もひれ伏すような暗黒の時代を経験した。しかし、このような暗黒の時代にあっても、日本の裁判官にはナチスドイツの下の裁判官(ヘルムート・オルトナー著『ヒトラーの裁判官 フライスラー』2017 白水社 参照)に比べれば、勇気ある裁判官がいたといえる。日本の裁判所は、治安維持法に関する起訴事件の大半について有罪判決を下し、治安維持法違反事件の弁護活動を理由に、布施辰治弁護士の弁護士資格を剥奪したが、他方で、人民戦線事件(1944年9月2日控訴院判決)と大本教事件(1942年7月31日大阪控訴院 高野綱雄裁判長)などの極めて重要な事件では無罪判決を下している。戦時体制の下であっても、裁判官として司法の独立を守ろうとした少数の勇気ある裁判官がいたことは特筆されるべきである。
自らの市民的自由が保障されている環境でなければ、裁判官が市民の人権を保障する判決を書くことは困難である。裁判官が、臆することなく、憲法と良心だけに従って真に独立して裁判を行えることと、自らの信ずることを自由に発言できることとは、実は表裏の関係にあるのである。
司法の危機の時代においては、一人一人の裁判官が黙り込んでしまうのではなく、司法の守り手として言うべきことについて発言を続ける覚悟を持つことが問われている。そのような個性を持った人々の集合としての司法こそが、政府からの独立性を確保し、政府の暴走を止めることができるのだ。」
その他の今日の司法ニュース
弁護士が清算手続中の会社の預金1・5億円着服…横領容疑で逮捕
21世紀法律事務所
https://news.yahoo.co.jp/articles/a66b414e4b8ac45b5a220553284b7478e84dd752
民事裁判で性被害者の情報秘匿 法改正向けて検討へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210707/k10013123261000.html
検察内でも「不公平」の声 現金受領の100人不起訴
https://www.asahi.com/articles/ASP766VM0P76UTIL025.html
「検察は早く証拠を出して」17年前、無実の罪で逮捕の西山さん 国賠請求訴訟の協議続く
https://news.yahoo.co.jp/articles/b4d0876979a8438f6a0d7480192d7e5c295017f2
「私には声がある」 入管法改正に反対した高校生の学び
https://mainichi.jp/articles/20210702/k00/00m/040/182000c