請負代金請求訴訟の請求原因の要件事実に「仕事の完成」が必要な理由を説明せよ。
という問題が、今年の予備試験の法律実務基礎科目(民事)で出題されました。
「それは、「仕事の完成」が請負代金請求権の行使要件であるから」というのが「大島要件事実」の独自の見解。
この見解を多くの受験生が「丸暗記」している状況を知った試験委員が,
狙い撃ち的にこの出題をしたというわけではないでしょうが、
この見解をそのまま書いてしまった方は、ちょっと残念な答案になってしまいました。
一般に、請求原因の要件事実は、訴訟物である請求権の発生要件だけで足りるのですが、
請負代金請求訴訟の場合、「仕事の完成」が「代金支払」よりも先履行であるという判例があるため、代金支払請求をする原告としては、自己がその先履行義務を果たしたことも明らかにしなければなりません。そこで、「仕事の完成」も、請求原因の要件事実として必要になるというわけです。そういう趣旨のことが書かれていれば正解です。
もっとも、ここから先は答案に書く必要はありませんが、請求権の発生要件以外の要件が、なにゆえに請求原因の要件事実に加わるについては、一言説明が必要なところではあります。
請求原因は,請求権の発生要件のみから成るというセオリーに忠実に従うのであれば、これに対し,「先履行義務を果たしていないこと」が阻止の抗弁になりそうです。
しかし、これでは、被告において、「仕事が完成していない」という消極的事実を立証することになってしまいます。そこで、いわゆる修正規範説に立つ司法研修所民事裁判教官室の見解に従い、立証責任を転換させ,その反対事実である「仕事の完成」を原告が立証すべきであるとすると,「仕事の完成」が請求原因の要件事実に加わることになります。要件事実問題集(第5版)9頁では、このような説明をしています。
大島要件事実の独自の見解も,実は、この話をしているものです。阻止の抗弁という、請求権の行使に係る要件が,立証責任の転換により,請求原因にせりあがった場合のことを、「行使要件」と呼んでいるのです。
しかし、なにせ、大島要件事実は、そういう説明を一切すっ飛ばして、結論しか書いていません。初学者である予備試験の受験生が、その行間を読むのはまず不可能でしょう。
そして、実は、この行使要件説は、もともとは、要件事実マニュアルに書いていたものだったのです。それを、大島要件事実が、引用元を明らかにしないまま、まるで自分の見解であるかのように書いているものなのです。その後、要件事実マニュアルの方は、改説し、この行使要件説を捨てたため、現在は、大島要件事実だけがこの説に立ち続けているというわけです。
なお、9月頃に発売になる「ゼロからマスターする要件事実」では、請負債権・請負請求権別概念説にも言及しています
その他の今日の司法ニュース
京アニ放火事件から3年
裁判が始まる見通し立たず
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220718/k10013722981000.html
「限界ニュータウン」オーナーを狙う、悪質業者の手口
https://www.rakumachi.jp/news/column/294427
インハウスローヤーの実態
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2022_0708/p02-14.pdf
「医療少年院に行ってみると、境界知能や軽度知的障害の子が多くいて、知能の問題が一つのきっかけで非行に走り、犯罪の加害者になっていることを知りました」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00369/052700021/
「旧統一教会」とは言わない方が委員会
https://mouseion.hatenablog.jp/entry/2022/07/17/150936
https://twitter.com/Erscheinung35/status/1548621286435586048